寄稿文「文部科学大臣賞に輝いて!野口節生」

 この度は文部科学大臣賞という栄誉ある賞を頂戴して心から喜んでいます。当日の審査員の先生方、大会を運営して頂いた役員の先生方に感謝申し上げます。詩吟を長い間続けていると、このように詩吟の神様から褒めて貰えることがあるようです。

 詩吟を初めて21年になります。私をこの道に入れて頂いた棚本岳水先生(現, さがみ岳風会会長)より、詩吟のいろはから指導を受けた頃が懐かしく思い出されます。始めて2、3年目の頃は稽古自体が楽しくて仕方がなく、仕事が終わった夜に毎日1時間以上飽きることなく自主練をしていたように記憶しています。それから数年が経ち、準師範の免状を頂き、教室を開くことになりましたが、生来の歌好きから歌謡吟詠の教室を開くことを許可して頂きました。歌と詩吟を教える難しさはありますが、詩吟人口よりも歌好き人口の方が多いと思い、生徒を集めるのも苦労が少ないと考えました。歌好きの仲間五人に声掛けをし、教室をスタートすることが出来ました。

 人に教えると勉強になるとよく言いますが、正にその通りです。今までは、自分一人が吟じていれば良かったのですが、いざ人に教えるとなると何をどう教えれば良いのかと悩みます。教えるための教材もないことが分かり、一から自分で作り始めました。そんな試行錯誤を繰り返しながら10年以上運営しています。いくつか作った教材の中に、コンクール挑戦者のためのマニュアルがあります。自分の過去も失敗を繰り返さないため、普段の練習方法から始まり、コンクール当日の行動の仕方まで多岐にわたりまとめました。勿論、筆者自身もこのマニュアルに沿った行動をしています。その一例をいくつか紹介します。練習方法としては、①必ずしも通し練習にこだわらない。自分の練習したい箇所を中心に練習する。②仕上げに行う通し練習は原則一回だけにする。一回にこだわっているのは、コンクールもやり直しはきかないからです。この通し稽古は必ず録音し出来ばえを確認する。③普段から十八番を準備しておく。最低でも十題程度は用意しておくと良いと思います。これは、その年のコンクールの吟題が決まってから、慌てて練習を開始するのではなく、普段からある程度自分のレパートリーを用意しておくという意味です。尤も、日本詩吟選手権大会は吟題が自由ですから話は別かもしれません。当日の行動としては、①発声練習は会場に着く前に済ませておく。例えば、カラオケボックスに行き、声出しをする等。②本番までは声の状態を維持するためにのど飴や温かい飲み物を摂るようにする。③本番一時間くらい前までには、その日の吟の通し練習をする、等です。今回の決選大会でもこのやり方を踏襲しましたので、本番に際しても慌てることなく、自分の声の維持とコントロールが出来たように思います。

ここで少し歌謡吟詠の話をします。今回選んだ吟題『秦准に泊す』も実は歌謡吟詠の中の吟として取り入れて練習していました。歌謡吟詠の一部として詩吟の練習をすることで筆者の気付くいくつかの利点があります。一つ目は、吟の前に歌うことでそれ自体が発声練習になることです。歌謡吟詠それ自体の練習という場面と、吟詠の練習のために歌謡吟詠の歌を活用するという二面性を持っていると思います。二つ目は、歌と吟とで関連性を持たせることで、歌の詩情表現をしながら、その延長上で吟じることにより、吟の詩情表現をしやすく出来るという利点があります。三つめは、長時間歌い、吟じることでスタミナがつきます。歌謡吟詠になると最低でも五分間歌い、吟じることになり、結構体力・気力を要します。絶句一題、短歌一題で声枯れしないよう、ジョギング感覚で歌謡吟詠を練習しています。

 コンクールというと、以前は強い吟が良いのではないか、審査員も強い吟を好むのではないだろうか、等と根拠のない議論や思い込みをしていた時期がありました。でも今はそういう考え方は必要ないと言い切れます。自分がこれと思う吟題を選び、しっかり吟じることが出来ればその吟題でよいのだと。

私の詩吟のゴールは、人を感動させるような吟をしたい。心地よいと言われる吟をしたいことです。そのための練習を日々続けていく、それに尽きるような気がします。思いが大事、日々鍛錬是好日。

野口節生(吟号:摂粋)
昭和24年3月31日生
吟詠深粋流深粋会所属
摂風歌謡吟詠スクール代表
日本伝統文化吟友会常任理事
クラウン吟友会会員